祁答院慎の一人親方ゲーム工房

開発ブログ「Made with RPG Developer Bakin」第2回
初めての3DRPGツールとの出会い、試行錯誤しながら生まれた習作、迷いながらも形になっていくゲームの断片……。祁答院さんならではの視点と感性で綴られる、Bakinとの「最初の一歩」をどうぞお楽しみください!
祁答院 慎(けどういん まこと)
日本のゲームクリエイター・シナリオライター。兵庫県尼崎市出身。学生時代に自作したホラーゲーム『コープスパーティー』が同人作品として注目され、後に商業化。シリーズはゲームだけでなく、小説、ドラマCD、アニメなど多方面に展開され、国内外で高い評価を受ける。ホラーやサスペンス、青春群像劇など人間の内面に迫る重厚なストーリー作りに定評があり、独特の恐怖演出や心理描写にファンが多い。近年もゲームや小説で新作を発表し続け、精力的に活動。制作スタイルとして「まず物語から考える」ことを重視し、自身の体験や感情を反映させながら作品世界を構築している。

8月某日(開始初日) 一番楽しい時間
というわけで、スマイルブームの「RPG Developer Bakin(以下Bakin)」を駆使して、「限られた期間でなんか面白いサンプルゲームを作る」企画を行わせて頂くことになりました。さらにはこうして制作日記といいますか、祁答院があれこれ色々と考えながらゲームを作ってゆく過程を皆さまに赤裸々に公開する、ブログ連載の機会まで頂戴しました。
しかも見守って下さっているのは、僕の原点、実家ともいえる伝説の雑誌、「ログイン ソフコン」誌の元副編集長、杉肉さんこと杉内さん。これはもう実質、時を越えて「ログイン ソフコン」の記事を書かせて頂けるに等しいと言っても過言ではないでしょう。光栄な機会に、テンションはMAXです!
さぁ面白いの作ろう! 明日から!

『ログインソフコン』は、1990年代に刊行されたアマチュアゲームクリエイター向けの専門誌。コンテスト形式を採用し、優秀作は誌面で紹介されるとともに付録CD-ROMに収録され、読者が実際に遊ぶことができた。
8月某日(開発二日目) 『世界』を探せ!
一夜明けて、どんなゲームを作ろうかなと考えています。
『自由にやっていいよ』と有難いお言葉を頂いた祁答院。さっそく妄想を開放してみます。
すると……出るわ出るわ! 魑魅魍魎のような、業に塗れた沢山のアイディアが!
しかしやはりスマイルブームの『クリエイティブにまっすぐ』で、『大人も子供も楽しもう!』というクリーンなイメージを損なうようなものは宜しくありません。
こう見えて、空気を読んでものづくりをする祁答院。優しい世界観で、自分らしさを表現できるお話はないか? と考えなおします。
そして浮かんで来るストーリィ――。
『優しい雪が淡く包んだ白銀の森を、鮮やかな赤に染めたら、映えた!』
『子供の未来をはぐくむために、学べるRPG! 食材目線で、人に食べられる肉のものがたり。
ファーストステージは口腔内』
――違う。無理。優しい物語どころかこれは「R18G」。
不貞腐れた祁答院は、ベッドに寝転んでしまいました。そして「ドラクエウォーク」を始めます。
果たしてよいアイディアは降りてくるのでしょうか。
8月某日(開発三日目) 始めただけで大勝利
ベッドのなかでも今回掴みたい『世界』は見えず、スマホゲームのガチャで“爆死”し、ますます創作の迷宮(ラビリンス)に足を踏み入れた祁答院。
しかしものづくりの入り口は大事です。これぐらいで良いのです。焦ってはいけません。
自分の「好き」をたくさん集めて、夢の世界に漕ぎ出しましょう。
ただ、今回の企画には期間があります。そろそろ決めなければ、と少しの焦りが頭をもたげます。アイディアを絞れない、これは尖り目を自負するゲーム制作者としてアイデンティティの敗北では……?! と。
そんな時、何気なくX(旧Twitter)を眺めた祁答院は、東京都立産業貿易センター浜松町館で行われていた「東京ゲームダンジョン9」のポストを目にします。関連タグで追いかけるとそこには、愛情をこめて制作された数多の魅力的なインディーズゲームたちが、まばゆい輝きをタイムラインに放っていました。さらには、我らがスマイルブームのポストもあり、出展されたBakinで沢山のお客様が「RPG作り」に触れて楽しまれている写真が並んでいます。ニコニコしながら眺めていた僕は、そこである標語に目を奪われました。
『ゲーム作り 始めただけで 大勝利』。
そう。アイディアを本気で考え始めた時点で、僕はゲームを作り始めている。――これはもう、勝っている! そう自分に言い聞かせ、明日の自分にバトンを渡して、「ドラクエウォーク」を始めます。
ポジティブシンキング、焦らなくていい。考えただけでも、ドットを1ピクセル打っただけでも進んでる。制作を続けるうえで大事なこと。この言葉は、全ての「未来のクリエイター」に届くべき金言だと思います。

8月某日(開発六日目) とりあえず触れてみよう!
アイディアというものは日々の日常を送るうえで、ふとした時に浮かんで来ます。
せっかくなのでRPG制作ツールに触って遊びながら、案をひねり出してみようと考えた祁答院、早速PCにインストールしたBakinに触れてみることにしました。
ええ。告白します。
過去に「コープスパーティー」や、恩師・矢野大将さん(ログイン ソフコンの元編集者)と一緒に「ワクワク文化祭」等を作ってきた僕ですが、2DでのRPG作成ツールなら概念ごと完璧に頭に入っている自負があります。ただ、Bakinのサポートしている3DRPGとなると、高さの概念が入ることでマップ作りからしてガラリと制作環境が変わります。
出来ることが増えるわけなのですが、その要素についてはちょっとした思い込みがありました。
「難しくないかな」と。
もしかするとこれを読んでおられる方の中には、僕と同じく3DRPG作成ツールに、触ってみたいんだけど苦手意識を持っておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
大丈夫です、祁答院もそんな感じなので、共に進んでみませんか。
失敗し、転びながら進むこの連載が、あなたの苦手意識をも吹き飛ばすものになることを祈っています。格好良い、「HDで2D的なゲーム」を作りましょう。マスターしてやるぞ! 待ってろ! Bakin!
8月某日(開発七日目) 祁答院がツールでやりがちなこと①
久しぶりの体験です。目の前にそびえたつ巨大な山に向けて「果たして登頂できるのかしら」と息を凝らす、不安と期待の入り混じった、まるで冒険に出る前夜のようなワクワク感。
何処から手を付ければいいのだろう? と考えたときに、YouTubeでBakinと検索すると、沢山の「公式チュートリアル動画」や、先達のBakinクリエイターの皆さまの「解説動画」が出てきます。
この優しさがそこかしこに溢れている辺り、やはり今は良い時代だと唸らされます。しっかり時間を取って、動画を観ながら実際にツールを動かしてラーニングしてゆくとして……おそらくほとんどの僕のような初心者は、『それは大変そうなので、一旦まずは触りたい!』となるでしょう。
そこで祁答院は初心に……というか、童心に帰ってみることにしました。初めてRPG制作ツールに触れたときにやったあの行為。きっとだれもがやったあのムーブ。
許可なく知り合いを登場人物にして、仲間にしたり敵キャラにしたり、『友達の名前クエスト』みたいなタイトルをつけて、馬鹿みたいに笑って家族から白い目で見られた、あの面白行動。ものづくりの楽しさに触れる、登山道の第一歩です。これをやってみることからこの山を登ろう、と。
そしてこの習作ゲームが出来たころには、本制作ゲームのアイディアも出ているだろうと期待して……!
8月某日(開発八日目) 祁答院がツールでやりがちなこと②
まずはゲームのタイトルを決めるところから。このムーブは、力を入れず勢いで作ることが肝要です。祁答院、ざざっと各項目を埋めてゆきます。

初心者が最初に触りたくなる部分、をよく分かっておられる。「ゲームを定義する」と称して、タイトル画面などの設定項目が固めてあります。ここから改造する形で行きましょう。これが……

こうなります。
……うわっ、これホントに最初のRPG制作ツールでやりました。不意に浮かび上がる、学生時代の祁答院の顔……。
まさかの過去の自分に対する共感性羞恥で椅子から転げ落ちましたが、最初はこれでいいのです。そのまま進めてみます。
とりあえず『テストプレイ』を押してみると……

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良いですねぇ、自分だけ笑ってるこのピュアな転倒感! だけどもう友達に見せたい! そうそう、ゲーム作りってこれがスタートでしたよね。まさに創作の原点に向き合いなおす、貴重な時間が流れています。
そのまま「はじめから」始めても当然何も作られていないので、一旦ここでテストプレイも終了。キャラの名前も色々と浮かんできますが、いよいよ3Dマップ制作に入っていこうと思います。次回から!
いやあ楽しかった!
8月某日(開発十一日目) 良いインプットを
このブログでは、時々祁答院のプライベートも紹介させて頂けるそうなので、友達から通称「お化け屋敷」とも言われている、僕の自室にも触れてまいりましょう。ヤバいものが写真に写り込んでいたらすぐ消されると思うので、お早めにご覧ください。
良質なエンタメに触れることは、ときにアイディアの引き出しを開くヒントにもなります。今日は、疲れた時の祁答院の心の清涼剤、愛してやまないアリ・アスター監督の映画「ミッドサマー」を観て浄化されるといたしましょう。
この「ミッドサマー」は、お洒落なトレンドとしてのプロモーションが素晴らしく、ホラー映画というマニアックなジャンル映画ながらも、比較的知名度の高い作品なのですが、カジュアルにカップルで観に行くと途轍もないしっぺ返しを食らい、何なら破局のきっかけにもなりかねない(!)ストロングスタイルのホラーテールです。家族や友人、恋人など、人間関係の裏にいつも横たわってくる重たい闇と光にスポットをあて、剥き身にするのがアリ監督の論法のひとつなのですが、前作の「へレディタリー」よりはマイルドとはいえ、この作品も強烈にシニカルで酷薄な目線が貫かれます。心が健康な時に、ぜひお一人で、「ホラーが絶対に苦手」でない人に限り、ご覧になってみて下さい。そういった要素がクセになり、最終的には僕のように「ホルガ村に行きたい」と言い出してしまうほど、癒しにもなれる極上の作品です。

8月某日(開発十五日目) アニマルな森の楽しさを思い出して

「俺 英雄」さんの冒険譚
実はあれから、「伝説の俺」だったか「俺の伝説」でしたか、試作ゲームの方は、主人公のキャラクター設定なども入力して遊んでおりました。楽しくてあっという間に時間が経つのですが、逃避もそこまでだと奮い立ち、3Dマップ作成に挑むことにします。さあ冒険の始まりです!

新規にマップ作成を開始すると、広い緑の大地が現れます。マウスを直感的に動かしてカメラアングルを調整しながら触ってゆきます。物を置くのもいいですが、ショベルで掘ったり盛ったりするのが楽しいとアドバイスを頂いたので、早速やってみます! すると……

あっという間に凸凹だらけのフィールドが出来、素人の祁答院には「穴の底の一部を選択して盛り上げる」などの細かな操作が分からずに制御不能になりました。これが3D、「高さ」の概念がある故の自由度と難しさ……! と打ちひしがれていると、再びアドバイスが!

最初の植樹。りっぱな森になってね!
粘土でお城を作るように地形を仕上げたら、今度は「木」という物体を置いてみます。Bakinのなかに配置する物体は、3Dモデルも2Dの絵も、すべて「スタンプ」と呼ぶようです。早速「木」のスタンプを置いてみました。
なぜか空中に置かれた場合は、その物体を選択して「Q」キーを押すと、地面にポトッと着地してくれます。これも非常に便利! 正直これだけ知っていれば3Dマップ作成の「高さに合わせた物体の設置が難しそう」という懸念はなくなって、もうヘッチャラといえるほどです。
目からうろこが落ちる思いでした。これも覚えておきましょう。

便利メニューはいろいろあるが、まずは1~2個覚えることから始めてみよう。
右クリックで出るメニューから、「高さの低い方にそろえる」という、自動で整地してくれるコマンドがあります。これを使うと一気に解決です。好き勝手に盛ったり掘ったりしてから、このコマンドで整地。それを繰り返すことで、美しい、歩きやすいマップを簡単にディグれます。これが非常に便利なので、僕と同じBakin初心者の方は、一緒に覚えておきましょう!

お友達を自分の村に招待するイメージで、素敵な増築にこだわろう
そして家やキノコなどを自由に並べてゆくと、急に楽しくなってきます。そう、僕は「どうぶつの森」シリーズで、こだわりの村を作るのが大好きだったのです。なるほど、あの感覚だ!
RPGの舞台装置としてマップを作成するという「作業」ではなく、拘りの村や街並みをずっと作り込んで行ける「箱庭ゲーム」だと考えると、この工程が俄然楽しくなってきました。やれるかも! Bakin!
8月某日(開発十七日目) 【シリーズ】おいでよ、祁答院の森

祁答院があつまれ どうぶつの森で再現した因習村「ホルガ村」。
Bakinで村を作る楽しさを見出した祁答院。先日観なおした映画「ミッドサマー」の余韻から、また自室の「お化け屋敷」ことコレクションルームを触り始めました。過去に「あつまれ どうぶつの森」を使って、「ミッドサマー」に登場する因習村「ホルガ村」を再現して遊んでいたことを思い出し、アイディア出しの参考になるかも(?)と、グッズを掘り起こしたくなったのです。逃避ではありません。
「ミッドサマー」を配給されている映画製作・配給会社「A24」は、映画で使用した小道具などを用いたチャリティーオークションを開催したり、各作品に合わせた奇抜なグッズをリリースしたりと、今の時代に寄り添っているポジティブなマインドが感じられる会社です。この「ミッドサマー」でも、映画を観た人は絶句するしかないグッズがいくつかリリースされていました。
そのひとつ、「Midsommar Incense Temple」は、映画のラストに登場するあの「黄色い寺院」を模した香炉です。火をつけるとカモミールなどの、夏至らしい香りの煙が立ち上ります。……あんまりでは!?
色々なものが眠る祁答院の部屋、また面白いものを発掘したらご紹介します。
8月某日(開発二十日目) 習作「俺の伝説」堂々完成
なんだか手癖でタイトルを「伝記」にしたり、それじゃLegendにならないでしょと「伝説」に戻したりしながら(これも学生の時にやったなぁ)、習作【俺の伝説 ~The Legend of ORE~】がついに完成しました。今回、「思い付きにブレーキをかけない」縛りで感覚のままに作ってみましたが、僕のセンスは学生の頃からあんまり変わっていないようです。
まずは背景マップをご覧ください。

先日の日記のものと比べると、大分クオリティーも上がったのではないでしょうか?!
「ランダムペン」を使うと、木を続けて置くときに向きやサイズをランダムにしてくれるので、「マップチップを並べた」ようなパターン性が消えて、見た目のリアルさがアップするので、おすすめです。

早速ゲームを始めてみましょう! ぼくの考えた珠玉の英雄譚を、ダイジェストでお届けします。

「おはよう。英雄」そんな言葉で始まるこの物語は、主人公の名前が英雄(ひでお)だと明かされるところから始まります。どうでもいいですが。

自らと向き合うために、自分の運命を知るために。「自我を覗き込む」ことを決めた英雄は、村のイド(井戸)に入ろうと試みます。可哀そうに。
ところがここでクエスト発生! フラグ(スイッチ)による分岐を試すために、祁答院が入口に鍵をかけました。カメラも使ったちょっとした謎解きが発生しますが、そこは英雄。無事ゲットすることが叶います。

マップ名表示はON/OFFしたり、フォントを変えたり多彩なカスタマイズが可能。拘りの演出を詰め込めそうだ。
村の中心に立つ謎の女性に導かれ、英雄は井戸の中に転げ落ちます。そこで待っていたのは、自身と向き合う試練。祁答院が試しに作った、暗く広く、カメラアングルなども試しつつ生み出されたダンジョンマップを、英雄は健気に進んで行きます。ごめんね!


会話イベントも、名前枠の出るオーソドックスなものから吹き出し形式のものなど、多様なスタイルで表現が可能だ。
「試練の洞窟」を冒険し、最深部に到達した英雄は、ついに自らと向き合います。そこにいたのは、自身の「恐怖」そのものでした。敵すらも「己に打ち克て!」と鼓舞する展開に、
英雄は「わかった!」。
本当に理解したのか怪しいですが、かくしてラスボスバトルは始まります。最初英雄があまりに弱かったので、キャスト設定から主人公「英雄」の攻撃力などを調整し、バランスを取ります。
バトルシーンの定義で戦闘時のBGMなどを指定しておけば、その設定が自動で読みだされます。設定する項目はこうして次々と多岐にわたり始めますが、その都度設定して行けば大丈夫そうです。

ラスボスを倒す英雄。自己を克服し、運命に目覚めた彼は、雄々しく次の冒険へと旅立ちます。足早に村を去って行き、物語は純白のエンドロールへ。「そして伝説は始まった!」


恒例のエンドロール
英雄君の冒険譚を作成したおかげで、Bakinの基礎の操作は把握出来た気がします。あとは、作り込みのために「細かな設定」を掘り進めて、よりディープに自分の表現を追い求めるのみですね。特にやはり背景マップ作成やカメラワークが、今のところまだ苦手意識があるので克服してゆきたいところです!
――さて。習作も完成したところで、本題の「今回のゲームテーマは何で行くか?」ですが、
実は英雄くんを触りながら頭に浮かべていたアイディアがあります。
8月某日(開発二十三日目) 僕の原点をリビルド?!
実はBakinでゲームを作成させて頂けると伺った際に、最初に思いついた案のひとつなのですが、折角の「僕の原点」に立ち返ったRPG作成ツールでの企画なので、ここは僕が最初に作ったゲームといま向き合ってみるのも面白いのではないかと。
というわけで、祁答院の今回のサンプルゲームは、最初に手掛けた情熱のかたまり、そしていま見ると割と恥ずかしい「サバトの女王」を、Bakinでリビルドすることにしました!
1995年ごろにPC-9801で祁答院が作成し、ログイン ソフコンの付録CD-ROMにも収録された「知る人ぞ知る」ファンタジーRPGです。猫耳少女の主人公が、優しいお兄さんの熱病を治すために幻のハーブを求めて旅に出る……というお話。
果たしてどんなリビルドになるのでしょうか。僕にもまだわかりません! 次回の連載ブログにご期待ください!
