祁答院慎の一人親方ゲーム工房

開発ブログ「Made with RPG Developer Bakin」第5回
「RPG Developer Bakin」でのサンプルゲーム制作はいよいよ大詰め、“ブラッシュアップ”の段階に突入しました。しかし、カメラ演出やレンダリング設定の試行錯誤を重ね、ミニゲームの制作に悩んでは時間がみるみる溶けていく──。悩み、寄り道し、気づけば夜を越える。そんな祁答院さんの創作の日々と混沌の記録を、どうぞお楽しみください。
祁答院 慎(けどういん まこと)
日本のゲームクリエイター・シナリオライター。兵庫県尼崎市出身。学生時代に自作したホラーゲーム『コープスパーティー』が同人作品として注目され、後に商業化。シリーズはゲームだけでなく、小説、ドラマCD、アニメなど多方面に展開され、国内外で高い評価を受ける。ホラーやサスペンス、青春群像劇など人間の内面に迫る重厚なストーリー作りに定評があり、独特の恐怖演出や心理描写にファンが多い。近年もゲームや小説で新作を発表し続け、精力的に活動。制作スタイルとして「まず物語から考える」ことを重視し、自身の体験や感情を反映させながら作品世界を構築している。

11月某日(開発八十三日目) 新たな沼、カメラ演出
始まっております、「RPG Developer Bakin(以下Bakin)」を駆使して、「限られた期間でなんか面白いサンプルゲームを作る」企画。
――唐突ですが、最近の僕のハマってることをご紹介します!
それは、Bakinの「カメラ演出」です! フゥーッ! 👍👍👍
開発80日目を迎えていよいよ「錯乱しながらのものづくり」も極まってまいりましたが、ドット絵に続いて、実際いまもっとも深く沈んでいる沼が、これなのです。

高機能カメラツール。専門用語に最初はとまどうも、試すとすぐに意味が分かってくる。
2Dツールでは固定画角が前提でしたが、Bakinは3D。カメラツールで角度を3度傾け、動きを少し変えたただけで、同じマップが別の作品に見える。
今日はとある「森の泉」のシーンを作っていたのですが、カメラリストに新規登録、被写界深度で遠景をぼかす、ライティング、色収差、そもそもの画角……と試していくうちに、
『これじゃない……いや、こっちか??』と延々トライ&エラーを繰り返してしまいます。
さらにはキーフレームを自在に増やして、「カメラを動かすこと」まで出来ることを知り、
今度は映画的なカットの模索。
ここでも失敗を繰り返し、ようやく使いこなせて来ると、今度は『滑らかなカメラの動きに拘りたい!』となり、何重にもこだわり始めてしまいました。いやぁ、楽しい! ホントに楽しい……。
結果、ゲーム中で物語のキーになる重要なイベントシーンを一つ組むのに、費やした日数はまる二日……。
いや、ドラマチックな場面ほど、寄り・引き・俯瞰・ロールの組み合わせで“情緒”が劇的に変わるんです。0.5秒のモノローグ前の“間”の差し込みで、それに合わせたカメラ動作の1フレームで、キャラの思っている気持ちもまるで意味が変化します。そりゃぁここはこだわりたい。こだわるべき。妥協したくない。だが時間はない!
追い打ちをかけるように、担当の杉肉さんが毎日『今日の進捗どうです?』とプレッシャーをかけてくる……!
――どうする祁答院! ……ん? いやいや、答えは簡単です。
――寝なければいいんだ。(高度な訓練を受けています。真似はなさらないで下さい)
そうして、仕上がった完璧なワンカット。我ながら惚れ惚れとしてしまいます。スクリプター(演出)のお仕事も向いているんじゃないかしら……などと半分寝た頭で言を吐きつつ。次の沼(次のイベント作成)に飛び込んで行くのでした……!
11月某日(開発八十七日目) 主人公の家をチラみせ
サンプルゲームの冒頭、物語は往々にして“主人公の家”から始まります。
だからなのか、この“最重要マップ”の設計には力が入ってしまうものです。広すぎると移動が大変、狭すぎると物足りず。今回はダッシュも入れたし、全体を見渡しながら、歩き回るのが気持ち良いバランスを追ってゆきます。
「この部屋はいる? トイレは必須か? ……要るよなァ!」とお洒落なカフェで不気味な独り言を繰り返し(ノートPCで制作中)、お屋敷づくりに没頭しました。

メイド長の部屋。色んなところを調べることが出来る。
しかも今回は「使用人のメイドをたくさん配置」という、完全に杉肉さんと僕の夢を詰め込んだ仕様。廊下を歩くたびに違うセリフを言わせるか? 個性をどこまで再現する? など、凝り出すと止まりません。
その中心にいるのがメイド長。さらにメイド長は強気な少女。主人公に対して手厳しけど、本当は誰よりも心配している……――そんなキャラを作ろうと、イラストの表情差分とにらめっこをして、同じ貌(かお)で台詞を考え、演出を作り始めて……気づけば今夜も、超深夜。
その流れで、ちょっとした“ミニゲーム風イベント”まで作り始めてしまう始末。
……「お屋敷は適度に」だった予定が、完全に全力投球。やり切った顔にすらなっています。
果たしてこれは正解なのか、それともまた沼にダイブする事故を起こしたのか。時間はないのに、こだわりは膨らむばかりである。
11月某日(開発九十日目) 【シリーズ】おいでよ、祁答院の森
祁答院のお化け屋敷(コレクションルーム)にいるお友達を紹介します。
Mezco Toyzさんから発売されている可愛い闇の人形シリーズ、「Living Dead Dolls(以下LDD)」に、ゲーム【コープスパーティー】の制服を着せ、髪形のスタイリングも整えた、カスタム篠崎あゆみちゃんLDD。オリジナルドール服を販売されているPicnicさんに協力して頂いて誕生した、うちでも屈指のキュートな人形です。

帯までそれっぽく作っちゃって! ※カスタム品です。
LDDは、その名の通り可愛くも恐ろしいゾンビ人形シリーズなのですが、死因の描かれた鑑定書などがついた悪趣味(褒めています)でユニークなアイテムです。
沢山の魅力的な子がいますので、是非検索して、お気に入りのゾンビちゃんをお迎えください。お薦めの沼ですよ!
11月某日(開発九十四日目) 続・ミニゲームツクろう
祁答院はどちらかというと「読んで頂くシナリオ」が本業であって、特別なセンスとクレバーなひらめきが要求される、「ミニゲーム職人」ではありません。
……ありませんが。
例の“お屋敷ミニゲーム風イベント”を見た杉肉さんが、妙にキラキラした目で詰めてきます。
「これ面白いね。もっと欲しいな(チラッチラッ)」
……あからさまな圧。完全に圧。
――ハラスメント!
一瞬、そんな言葉も頭をかすめましたが。そんなわけがありません。面白いものを作るための“意見”を頂ける事は、「孤独」と思ってしまいがちなインディーゲーム制作に“共感”の温かみを享受できるもの。俄然やる気が出てしまったんです。みなさまも是非、近くに「見てくれる人」、「褒めてくれる人」を作って下さい。
さて、ハラスメントを受けた祁答院。
“できません”は言わない。言えない。だったらやるしかない……!
とはいえ、ミニゲームと一口に言ってもジャンルは無限。
アクション? リズム? 探索? ……いろいろ案を出した末、「ちょっとしたパズル」を作る方向に落ち着きました。
――が、これが難しい。そもそもが文系の僕です(無関係)、シンプルで、短くて、でも楽しい。そんな都合のいいパズルなど、そう簡単に生まれるはずもなく……。
そこで最終手段。
チームリーダー長井さん、召喚……!
あっという間に的確なアドバイスをいただき、見事、形になりました。
――長井さん、あなたが神か。
というわけで、新作ミニゲーム、なんとか完成しました。ぜひ本編で遊んでください。お楽しみに。
11月某日(開発九十九日目) 世界の意思を握る、レンダリング設定
Bakinの凄いところは、「同じマップでもレンダリング設定ひとつで景色がまるで変わる」こと。
影の濃さをいじれば重厚な空気に、ブルームを強めれば幻想的に、フォグを濃くすると一気に不穏……。
昼の森が「やさしい異世界」になったり、「呪われた森」になったり、とにかく“画(え)作り”の幅が広いのです。
今回の作品はキャラこそ可愛いドット絵ですが、ストーリーは比較的シリアス。「コープスパーティー」と同じ文法です。
だから世界の“空気”には、妥協は許されません。
レンダリング設定の「フォグ」「シャドウ」「環境光」「ブルーム」「被写界深度」……ありとあらゆる項目をひねり回して、理想の雰囲気を探し続ける旅が始まります。
『これだ!』と夜中に思っても、翌朝見返すと『うーん……もっと薄暗くしたい』『いや、逆に透明感を出したい……?』と、新たな沼に引き込まれるばかり。
特に“フォグの色”と“環境光の強さ”のバランス調整は、もはや沼越えて海。少し変えるだけで別のゲームになるほどの変化が出ます。
その世界が持つ意味、意思、成り立ちまで突き詰めて表現できるのがこの機能なのです。
気付けば、メインのイベント実装を放っぽり出してレンダリング調整に時間を吸われている自分がいました……!
でも、主人公が立った瞬間に『この世界に生きてる』と思ってもらえるように。
今日もレンダリング項目と格闘するのですよ!

不穏な食卓。
11月某日(開発百日目) 対話
作品に作者の主張は不要、想いは匂いも残さないのがベストだと言われています。
なのでこの連載を読んでくださっているあなたにだけ、こっそりと伝えますが、ゲームを含め創作作品は、作者と受け取り手との対話に近い構図もあります。この世界をどう思ってくれるかな、どこまで裏を読んでくれるかな、この子を好きになってくれるかな、憎んでくれるかな。……今回も、数多のリドルと、裏返しのエモーションを、言葉にのせて投げかけました。
「サバトの女王 Queen of Sacrifice」、受け取って下さった方の心が、少しでもドラマチックに揺れますように。もうすぐお届けします、お楽しみに!

