RPG Developer Bakin

ゲーム作り 始めた僕も 大勝利

祁答院慎の一人親方ゲーム工房

開発ブログ「Made with RPG Developer Bakin」第3回
 第2回となる今回は、祁答院慎さんが実際に『RPG Developer Bakin』を触りながら、どのようにゲーム制作に取り組んでいったのか、その過程を日記形式でお届けします。
 初めての3DRPGツールとの出会い、試行錯誤しながら生まれた習作、迷いながらも形になっていくゲームの断片……。祁答院さんならではの視点と感性で綴られる、Bakinとの「最初の一歩」をどうぞお楽しみください!

祁答院 慎(けどういん まこと)
日本のゲームクリエイター・シナリオライター。兵庫県尼崎市出身。学生時代に自作したホラーゲーム『コープスパーティー』が同人作品として注目され、後に商業化。シリーズはゲームだけでなく、小説、ドラマCD、アニメなど多方面に展開され、国内外で高い評価を受ける。ホラーやサスペンス、青春群像劇など人間の内面に迫る重厚なストーリー作りに定評があり、独特の恐怖演出や心理描写にファンが多い。近年もゲームや小説で新作を発表し続け、精力的に活動。制作スタイルとして「まず物語から考える」ことを重視し、自身の体験や感情を反映させながら作品世界を構築している。

9月某日(開発三十日目) 『サバトの女王』とは

そして、スマイルブームの「RPG Developer Bakin(以下Bakin)」を駆使して、「限られた期間でなんか面白いサンプルゲームを作る」企画は引き続き進行しています。この後とてつもない沼にはまってしまう、恐ろしい運命が待つとも知らずに……!

 さて、これから作るゲームは「サバトの女王」という過去作のリビルドと方針は決まったのですが、この記事を読んでくださっている方には「それってどんなゲーム?」とご存じない方も沢山いらっしゃることでしょう。リメイク制作をお伝えする前に、軽く解説してみたいと思います。

『サバトの女王』とは、PC-9801で祁答院が作成し、ログイン ソフコン誌の付録CDにも収録された「知る人ぞ知る」ファンタジーRPGです。自分の頭の中の「世界」を外に出し、形にして人に見て頂いた最初の作品。思い入れがとても強い作品でした。

 その頃から作風は変わらず、猫耳少女のキュートな主人公が、病気のお兄さんのために幻のハーブを取りに行くという、朗らかで心温まる、まるでそう、『絵本のような物語』の皮を被った、大残虐物語

奇をてらっているわけでも、ギャップのショックを与えようといった画策も一切なく、ただ好きなものを詰め込んだらそうなるからタチが悪いです。お許しください。

(『サバトの女王』:祁答院の初デベロップ作品。
救いのない猟奇的な展開に、現在の作風の片鱗が伺える。)

 『おいでよ、祁答院の森』は、グリグリメンバーいわく「お化け屋敷」こと、自室のコレクションルームをご紹介するコーナーです。前回ご紹介した映画『ミッドサマー』の寺院香炉も宝物ですが、もうひとつ、ずっと大事にしているものがあります。同じく映画グッズなのですが、かつてモキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)とPOV(主観視視点映像)映画ブームの火付け役となった『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のテディーベア。株式会社メディコム・トイ様製の「MISSING BEAR」です。
 劇中に登場する「魔女の証」ことスティックマンを口にあしらった、まるで往年のインターネットのアスキーアートのような顔がとぼけた味を出していて、かつ誘拐された被害者たちの手形がベタベタと張り巡らされたファブリックも圧巻。禍々しさとクールさが、ギリギリのバランスで同居に成功した稀有なグッズだと思います。めちゃめちゃ可愛くないですか?

(メディコム・トイ製「THE BLAIR WITCH PROJECT MISSING BEAR」。かつて祁答院は職場で「ブレアウィッチの森の情景音」をループで流してオフィス環境を森化することを試み、『何の音?』と上司に怖がられた過去がある。)

今回作成するゲームはBakinサンプルゲームという位置づけです。完成したら、中身のゲームデータもユーザーの皆様が自由に使える素材となります。どうぞお楽しみに!
 サンプルゲームなので、世界観の物語の『起承転結』の『起』の部分。沢山の皆様がこのキャラクターを使って、続きのお話や外伝ストーリーを作成してシェアして頂けたらとても嬉しいです。販売される場合は僕も大喜びで購入しに行きます。

そのためにも、世界の構築は大事。今回のものが『始まりの物語』とはいえ、その中でも起承転結があり、面白いお話にしたいですものね。
というわけで……世界構築の最初の作業、『俺の伝説』でもやりましたがプロット構築から始めましょう。

・こんな子が主人公で、
・こんな目に遭って、
・こう向き合って、
・こんなことになってしまう
・相手は死ぬ

 ざっくりとこの流れで「サバト」を分解し、サンプルゲーム用のプロットを組み立てます。経験上、RPG作成ソフトで世界を作るときはこれだけでも、各一行でも良いのでプロットを作ってからツールを触った方が、後々の未来の自分が困りません。
 MAPや街、そこでのイベントを思いつくままに組みながら、話の先を盛り重ね続けてゆく手法も正解のひとつです。どこに着地するのか自分でもわからない「お話の暴走モンスター化」が超楽しいのですが、その果てに最高のEDを思いついたときに修正するのがとても大変になる事がありますので、ガイドはあった方が無難、という知恵ですね。
 とはいえ、作り方は人ぞれぞれ。自分を信じてベストのBakinライフを楽しみましょう。

(旧『サバトの女王』も最初にプロットは作ったが、それが守られることはあまりなかった。)

 これも経験上のお話なのですが、思いつくままに組みながらお話を作ってゆくと、大体途中で悩む時が来ます。

「――これ面白いのかな?」
「だいぶ前のこのイベントの後に、こっちにお話を引っ張った方がよかった」
「巻き戻って展開変えるか……」
「でももう組んだ続きの展開も捨てがたい、どうしよう……」

――となります。
なので、やはりプロットは書いておくと「指針はブレない」ので安全です。

プロットがかけたら、Bakinでイベントを組んでゆくかのように、フローチャートを作ってみましょう。簡易的なものにして主に流れを把握するものとするのも良いですし、セリフも書き込んでしまうくらい精度をあげても良いです。これはゲームを作る上での設計図になり、後にあなたを助けてくれます。

プロットフローチャート。頭の中に置いておくよりも、話の展開を整理しやすいのでおすすめ。

祁答院ぐらいになると、プロットを立てて計算してから書き始めたにもかかわらず決められたプロットをブチ踏み越えてゆくのですが、これはあまりよくない例です。

 さて、フローチャートが出来たら、今度は「必要となるMAP」のリストを作りましょう。上記フローの中から、必要なMAPを抜き出してまとめてみます。

「プラムフィールド(草原)」
「ダンジョン」
「ルウの棲み処」 
 Etc.

これにより、大体の作成物の総量も少しずつ見えてきますので、完成に向けての大きな一歩となるでしょう。面倒そう? と思われがちですが、意外と楽しい作業ですよ。

 ゲームのシナリオはもちろん、脚本を書く仕事を目指される方は、とにかく何でも経験して、自分の中のアイディアストックを貯めておきましょう。近所の喫茶店へ新作のフラペチーノを飲みに行っても、周囲の方々の会話の中にも創作のヒントがあります。  
 祁答院はお知り合いの方のライブにご招待頂いても、その方のステージパフォーマンスを拝見し「すごい! カッコいい! 美しい……!」と感動しながらも、『天井照明から髪の長い幽霊が落ちてきたらどうなる?』なんていつも考えています。

 多趣味の延長で祁答院はフィギュアも購入します。今日は面白いものが到着しました。NECA社製の、映画「シャイニング」に登場する“グレイディ家の双子姉妹”のカートゥンアレンジのフィギュアです。漫画風にアレンジされていて可愛いながらも絶妙に怖いですね。今日からこの二人とにらみ合いながら仕事をしようと思います。

(NECA社の展開する「トゥーニー・テラーズ」シリーズ。ホラー映画などのアイコンキャラを可愛らしくアレンジしている。推しの殺人鬼(キャラクター)がいる方はチェックをおすすめする)

 祁答院の自室は「お化け屋敷」のほかにも、お友達からは「祁答院人形館」と言われて怖れられており、知り合いの方をモデルに、造型氏の方に依頼して1/6フィギュアヘッドを作り、本人の誕生日にプレゼントするという奇行を行っています。もちろん自分用にもストックするため、この部屋には沢山のお知り合いのフィギュアが並んでいます。マダム・タッソーさんが実在の方々をモデルにした蝋人形館を作られたのも、今では気持ちがわかります。

さて、お話のプロットが固まってきたらキャラデザインに入りましょう。これもゲーム作りにおいて最高に楽しい時間のひとつです。流行りの傾向を分析してキャラを立てるのもありですが、脳内世界を表に出す今回のようなケースでは、とにかく自分の「大好き」を詰め込むことを優先しましょう。ニッチでも良いのです、そのキャラの理解者がここにいるので。そしてきっと同じ癖(へき)を持った同志に、強烈に刺さります。
 キャラのイメージは自分ですべて描き切るのも良いですし、イラストレーターの方にお願いするのも良いでしょう。その場合でも、齟齬の無いよう、しっかりイメージをお伝えできるように全力を尽くしましょう!

「コープスパーティー」でも、キャラクターや小道具などのイメージや妄想は沢山作成された。

「父ちゃんなにやってんの?」

「ぼくのご飯は?」

 もう十年来にもなる僕の仕事の仕方で、ずっと封印せざるを得なかったスタイルがあります。しかしこれが、ドット絵制作の場合は解禁することが出来るのです。何かと申しますと……!
 そう、歌を聴きながら作業をおこなうこと! これが本当に嬉しくて! シナリオ作成で文章を考える際には、僕の場合は歌のある楽曲は、歌詞に引っ張られるのでなかなか両立が出来ずにいました。でも、絵を描く作業なら可能! ということでガンガンにお気に入りの楽曲をかけながらドット絵作業を開始しました。
 RPGのキャラ絵なので、まずは素体から作るか……と、服を着せていない素体人形から描き始めてみます。Bakinのキャラクターアニメーションは、サイズもコマ数もほぼ無限です。簡単にいくなら「右足出し、左足出し」の2パターンを書けばアニメーションには見えるのですが……サンプルキャラクターのHero君は歩きもダッシュも6コマアニメ。ゆえにあれだけ滑らかに美しく動くのですが、やはりこの高みを目指したい……と、サバトのドットキャラも6パターンアニメ歩行で行こうと決意しました。

開発三十日目の日記でも書いた「沼」とは……まさにここから始まります。動かし始めると髪や服の揺れまで表現したい、立ちポーズにだって呼吸をさせたい、目パチをさせたい……と、次々に拘りが頭をもたげ、終わりの見えない闘いの入り口がそこに現れるのです。

 そんな頭を抱える祁答院に向けて、恩師である杉肉元副編集長より金言を賜ります。

「クリエイターはまず7割を目指せ(でないと終わらない)」。


 これには祁答院も目から鱗を落とし、必要な部分のアニメーションのみを、愛情を込めて作る方針に変更しました(多謝!)。

 それでもそこに拘りを入れて結局“沼って”しまい、ここに大幅に時間を取られたために猛ダッシュ制作の旅に出ることになるのですがそれはこの先のお話……。

素体で良いのにディテールに拘り過ぎたためセンシティブ判定となったドット絵たち(※キラキラ加工済み)

 ブログの初期にもお話しましたが、ゲーム作りという冒険を攻略するために、時には信頼できる方の力もお借りしてパーティーを結成するのも選択肢のひとつ。

今回は期限が限られているので、背景や音楽など各種素材について、拘りをお伝えしながら、信頼できる方に共闘をお願いしています。キャラデザインなども近日仕上がって来ますので、次回連載でお伝えします。新生『サバトの女王』の続報に、ご期待ください!

jaJP