
開発ブログ「Made with RPG Developer Bakin」第1回
思いがけないご縁から、人気ホラーゲーム『コープスパーティー』のクリエイターで知られる祁答院慎さんに、『RPG Developer Bakin』(以下Bakin)を使って新たなサンプルゲームを制作していただくことになりました。その制作過程を通して、ゲーム作りの楽しさや難しさを、これからゲーム制作に挑戦したい方や、いままさに制作に取り組んでいる方々に向けてお届けする連載企画が、Bakin公式サイトでスタートします!
第1回目となる今回は、祁答院さんがどのようにしてゲーム好きからクリエイターへの道を歩み始めたのか、その原点に迫りつつ、Bakinに感じた魅力について語っていただくインタビューをお届けします。
第1回目となる今回は、祁答院さんがどのようにしてゲーム好きからクリエイターへの道を歩み始めたのか、その原点に迫りつつ、Bakinに感じた魅力について語っていただくインタビューをお届けします。
祁答院 慎(けどういん まこと)
日本のゲームクリエイター・シナリオライター。兵庫県尼崎市出身。学生時代に自作したホラーゲーム『コープスパーティー』が同人作品として注目され、後に商業化。シリーズはゲームだけでなく、小説、ドラマCD、アニメなど多方面に展開され、国内外で高い評価を受ける。ホラーやサスペンス、青春群像劇など人間の内面に迫る重厚なストーリー作りに定評があり、独特の恐怖演出や心理描写にファンが多い。近年もゲームや小説で新作を発表し続け、精力的に活動。制作スタイルとして「まず物語から考える」ことを重視し、自身の体験や感情を反映させながら作品世界を構築している。

1.ゲーム作りの原点
1. 最初に「自分でゲームを作ってみよう」と思ったきっかけは何でしたか?
—— そうですね、振り返ってみると……昔から物語を想像することが大好きな子どもでした。
友達とノートを回して鉛筆描きのリレー漫画を描いたり、授業中に教科書の隅に新キャラクターを生み出して、先生に怒られたり。
そんな祁答院少年がファミコンを遊び始め、なかでもストーリーに重きを置いたアドベンチャーゲームやRPGに出会ったとき、必然的に虜になってしまいました。全力で遊んで、鼻息も荒く友達に布教して、『ファミコン探偵倶楽部』などはビデオ録画までして周囲に見せたりしていました(笑)。
特に当時は、ゲームハードの処理能力や表現力が現在ほどハイスペックではなかったので、今振り返ってみれば、限られた環境の中でどう制作者の「頭の中の宇宙」を表現するかという発表会のような世界でもありました。「ゲーム機でこんな表現が?」「すごい、ゲームなのに映画みたい!」……と、今とは少し違った感動の仕方があったのです。
「すごいな、どうやって作ってるんだろう」「これこれ、これが見たかった!」と感心しながら遊んでいるうちに、やがて「僕ならこうするな……」という思いが芽生えました。おそらくこれが積み重なって、自分も「作りたい」という方向にシフトしていったのだと思います。そして本当に「作ってみよう!」と思ったのは、学生時代にPC-9801用の「RPG制作ツール」に出会ったときですね。「物語を作りたい」「作るなら、自分の大好きなゲームで」と思いながらも、プログラムは専門技術だし、プロにお願いしなければ無理では? というハードルがありました。しかしこのツールは、プログラミングの専門知識がなくてもゲームを作れるよう設計されており、初心者向けにわかりやすいユーザーインターフェースが提供されていました。「これなら僕でも作れるかもしれない」って、ゲーム作りが一気に身近になった瞬間でした。現代のゲーム開発ツールに比べると制限もあり機能も簡易的でしたが、「自分で作る」喜びを強く感じられるものでした。
2. 初めて完成したとき、どんな気持ちでしたか?
—— 大きな達成感がありました! 自分の名前が何度も流れ、関わってもいない友達の名前もずらずら並ぶエンドロールを作り上げて、しばらく悦に入っていました。
でも、1日もするとすぐにまた触り出す。すべてのクリエイティブに通ずることだと思うのですが、創作は楽しいので、求道に果てはないようにも思います。 僕は今でもマスターアップ後にまだ調整したくなって、「アップデートでこの演出を触れませんか」みたいなことを言いそうになりますからね(笑)。
3. 「プログラミングができないけどゲームを作りたい」と思う人に、何から始めるといいと思いますか?
—— 何よりも自分を引っ張ってくれるのは、作りながら常に対話を続け、見守ってくれる存在、つまり主人公たち「キャラクター」だと思います。彼や彼女たちが“自分にとって”魅力的であればあるほど、その子たちのために頑張れます。まずは自分の「大好き」を詰め込んだキャラを立ててあげるとよいと思います。そのうえで、キャラクターたちを自分の目指すゲームに飛び込ませるための最適な筆やパレットとして、僕が辿ったようにゲーム制作ツールも選択肢に入ってくると思います。
コミュニケーション力と責任感に絶大なる自信のある方なら、今であればインターネットを使って、プログラムが得意な方やゲームサークルを探して相談するのも良いでしょう。ただ、自分の理想やわがままや、キャラへの偏愛(?)をひたすら注ぎ込むには、最初は全部自己完結の環境で進めるのがおすすめです。つまりBakinのような、個人でも取り組めるゲーム制作ツールは、ゲーム作りに興味のあるあなたとキャラクターたちの、最強の味方になってくれると思います。
4. 挫折したことはありますか? それでも作り続けられた理由は?
—— 以前『コープスパーティー』というゲームをPC-9801用のRPG制作ツールで作成していたのですが、 ちょうどその際に阪神・淡路大震災に見舞われて、創作が出来ない状況になりました。 当時通っていた大学も休校になり、片付けが終わって周辺への支援活動も落ち着くと、 自宅で待機する時間が増えたのです。 その時に、最初に気力が戻ってきたのがこのゲーム作りでした。
深夜まで作り込み、朝、目が覚めたら最初にPCの電源を入れます。 シナリオ内の苦境と戦うキャラたちに鼓舞されて、曲や背景を一緒に作ってくれていた 仲間とのつながりも嬉しく、気付けばまた夢中になって、一気に仕上げることが出来ました。
何もしないよりも、何かを作ることは「前に進むこと」。そんな意識がきっとあって、 あの時の自分を支えるひとつになってくれていた気がします。 少なからず当時の環境と「コープスパーティー」が、自分のものづくりに与えた影響は あったと思いますね。
2.ゲーム制作の魅力
1. ゲーム作りで「これは譲れない」と思っていることは?
—— キャラクターへの愛情でしょうね。
ストーリー自体の面白さや熱中できるゲーム性、遊びやすさやUIの快適さ、かっこよさなど、ゲームを作るとこだわりたくなる部分はたくさんあるのですが、ゲームの中心にある核は、やはり僕の中ではキャラクターの魅力だと思うので、とにかく大事にしてあげたいと、いつも考えています。
2. ストーリー・キャラクター・システムのどこから作り始めますか?
—— そうですね、作る企画にもよりますが、僕の場合はまず大まかなストーリーを考えてから、そこに立つキャラクターを組み立てることが多いです。そして、それぞれの魅力を引き立てるにはどういうシステムがあると効果的かという要素を考え、突き詰めていき、システムに盛り込んでいく……という流れです。
3. 「自分の好きなもの」をどうやって形にしていますか?
—— まずはパッションありき、だと思います。ふわっとした表現ですが、根幹は「好きなもの」への「好きな気持ち」をモチベーションとして大切に持つことが、一番大事です。そして、そこからキャラクターやシステムに丁寧に翻訳していく。
僕の場合はホラーもののアイディアが多いのですが、「今回はホラーの中でもこういうジャンルをやりたい」といった指針を中心に据えて、
- 「だったらこんな悪役キャラが必須だよね」
- 「ならば主人公はこうでしょう」
- 「お調子者はいてほしいね」
- 「可哀想! 可哀想な子も入れたい!」
- 「動物は絶対に傷つけるな」
……などなど、脳内会議で方針とキャラが生まれてきたら、外見やシステムを肉付けしてゲームに落とし込んで、具現化していきます。
3.物語を作る面白さとは?
1. 昔から「ホラー」や「恐怖」をテーマにしている理由は?
—— やはり「好きだから」だと思います。
こう見えて実は、今も昔も怖がりな人間なので、ホラーゲームを遊ぶと今でも悲鳴をあげるんです。昔はそれが「苦手」だったのですが、嫌なものをわざわざ半目隠しで眺めているうちに、それは実際には安全なエンタメだと理解し、いつしかそれが「楽しい」に変わりました。
映画でもゲームでも、根幹にある楽しみのひとつに「非現実に飛び込む」楽しさがあると思います。恐怖モノが苦手な方にも、僕のようにスリルを越えた先にある安堵を楽しんでいただきたいなとも思うのです。
2. 作中のキャラクターには、自分や周囲の人を投影している部分はありますか?
—— はい。人物に限らず、日々の出来事でも、自分の体験したことを要素として作中に溶かし込むことはよくあります。ただ、自分の思いや考えをキャラに押し付けることはしませんし、もし見つけたら全カットします。とはいえ、キャラが勝手に動いて考えを主張し始めた場合は、面白いので許すことにしています。それはその子に命が宿った証拠ですからね。僕の考えとは真逆のことを言い出したりするので、キャラ育てって本当に面白いんです。
3. ゲームという形で「物語」を作る面白さはどこにあると感じますか?
—— 前述のように、物語を作っていく過程で、キャラクターに命が入ってくると、勝手にセリフをしゃべり始める瞬間があるのです。お話の導線はプロットでしっかり引くのですが、それを乗り越えようとしてくる。キャラが煮詰まり、人格が固まっていく――ということなのですが、命を生み出す感覚があって、やはり楽しいですね。
また、表現手段がゲームであることの優位性は、その子たちと一緒にプレイヤーを能動的に(=キャラを操作して)物語に潜り込ませていけることでもあります。僕は、可能な限り「体験」をさせてあげたいと思いながら作っています。その工夫をするのも、ゲーム制作ならではの面白さだと感じています。
4. 現在と過去作品で、何が変わって、何が変わらないと思いますか?
—— そうですね……(長考)。
多分、僕自身のクリエイティブは、根幹はほとんど変わっていないと思います。コンシューマゲームの場合は一人で作っていない分、たくさんの方が提案される作家性をリスペクトしながら、自分のテリトリーの部分(?)には全力でこだわりを入れ込みます。
過去の作品と比べて、現在手掛けている作品にあるものは、僕の個人制作に足りなかった部分、つまり「一般性」を入れていただけている、ということではないでしょうか(笑)
4.Bakinの魅力について
1. Bakinを使ってみて、どんな魅力を感じましたか?
—— おそらくですが、僕のように黎明期のRPG制作ツールや2D環境のゲーム制作ソフトに慣れ親しんだ世代の皆さまは、3D環境のゲーム制作ツールに対して苦手意識があるのではと思います。X・Y軸に加えて高さのZ軸が加わるだけで、自由度と表現力がグンと上がるのですが、そのぶん「作るのが難しいのではないか」と。そう思っていた時期が、僕にもありました。正直、今でも目の前にそんな疑り深い顔をした自分がいます。
ですが、ご縁あってBakinをご紹介いただいて、なによりも「久しぶりに自分のわがままを詰め込んだ創作もしたいな」と考えたときに、おずおずとBakinのエディターやサンプルゲームに触れ始めたら、いつの間にか夢中になっていました。触りやすいように工夫されたインターフェース。読んでも読んでも先があるマニュアル。目の前に横たわる、奥行きのある“可能性のかたまり”。懐かしいこの感覚……! 「ゲームを完成させられるかどうかの冒険」に出る前の、ワクワクを感じました。より研究を進めて、「進化を続けたゲーム制作ツール」の一角、Bakin。その魅力をもっと知りたいと思っています。
2. 最後に、本連載についてと読者に向けてメッセージをお願いします。
—— というわけで、2D環境のゲーム制作ソフトで育った祁答院が、最先端のツールに挑む冒険が始まります。Bakinには、すでに極みの域に達しておられる制作者の方がたくさんいらっしゃると聞いています。この山の、まだ一合目に立ったばかりですが、先輩方の足跡に敬意を払って、楽しい景色が見られるように、僕も進んでみたいと思います!
もしかすると、僕のように3D環境のゲーム制作ツールに苦手意識のある「ベテラン」に、希望を与える連載になれたらいいなとも思いつつ(笑)! まずは勘を取り戻すところから始めます。よろしければ、祁答院の冒険にお付き合いください。
どんなキャラと世界に会えるのか――楽しみです!
『コープスパーティー』とは?
『コープスパーティー』は祁答院氏の代表作。1996年に発表された同人ホラーアドベンチャーゲームに端を発する、学園ホラーシリーズです。その後、人気を得て商業作品化され、ゲーム・アニメ・漫画・小説・実写映画など多数のメディアに展開。シリーズ4作品がまとめて遊べるNintendo Switch™版「コープスパーティー TETRALOGY PACK」が2025年8月7日に株式会社MAGES.より発売予定。
※『コープスパーティー』はTeam GrisGris、『コープスパーティーBR、BS、2U、BD、TP』はTeam GrisGris/MAGES.の著作物です。
